化学の基礎

章末問題解答  

3章 化学的思考の始まり

1.(ヒント)原子量の値が決まっていないときに, 実験結果からそれらを決定するという問題である. その際には, アボガドロの法則「同温,同圧,同体積の気体に占める分子数は同じである」を使う. まず, いくつかの化合物の同温,同圧,同体積の気体の質量とその元素分析値結果から個々の元素の質量を求める. すべての物質が理想気体として振る舞うと仮定した場合に, 0℃, 1.00 atm, 22.4 dm3の気体(簡単のために, 以下これを標準気体と呼ぶ)中の各元素の質量を算出し, それらから各原子の原子量を求める.

実験1. 純水の標準気体の質量は, 密度×体積から18.0 gが得られる. 18.0 gの純水から得られる軽い気体の質量は2.0 g , 重い気体の質量は16.0 gである. また, 軽い気体の標準気体の質量は2.0 gであり, 重い気体の標準気体の質量は32.0 gである. なお, 実験2との比較から軽い気体は水素であることがわかる.

実験2. アンモニアの標準気体の質量は17.0 gで, これは14.0 gの窒素と3.0 g の水素からなることがわかった. また, 窒素の標準気体の質量は28.0 gであり, 水素の標準気体の質量は, 2.0 gである.

実験3. クロロホルムの標準気体の質量は119.3 gで, 119.3 g中にあるそれぞれの元素の質量は, 元素分析からC (12.0 g), Cl (106.3g), H (1.00 g)であった.

実験4. 塩化水素の標準気体の質量は36.4gで, 元素分析から36.4g中にある元素の質量は, H (1.00g)およびCl (35.4g)であった.

以上をまとめて, 0℃, 1.00 atm, 22.4 dm3の標準気体と同数の元素の質量(化合量)を表にすると次表のようになる. なお, 各元素の最小質量には下線をつけてある.

No

物質名

物質の質量(g)

成分元素

質量(g)

最小質量に対する比

純水

18.0

水素

2.0

2.0

酸素

16.0

1

アンモニア

17.0

水素

3.0

3.0

窒素

14.0

1

クロロホルム

119.3

炭素

12.0

1

塩素

106.3

3.00

水素

1.0

1

塩化水素

36.4

水素

1.0

1

塩素

35.4

1

水素の1個の原子の質量を1.00 uと仮定したとき, 酸素, 窒素, 炭素, 塩素の1個の原子の質量はそれぞれ, 16.0 u, 14.0 u, 12.0 u, 35.4 uとなることがわかる.

(なお, 上記の結果から, 水, アンモニア, クロロホルム, 塩化水素の分子式は, H2O, NH3, CHCl3, HClとなる. この手順を知られているすべての純物質について行い, 各元素の最小質量を求めて, その値から原子量を決定する).

2. C2H4Oの炭素, 水素, 酸素の原子価がそれぞれ 4, 1, 2であることを考慮すると, 二重結合を有するか, または環式化合物であるかのどちらかであることがわかる. 環式化合物は, Iのエチレンオキシドである. また, 二重結合を有する化合物ならば, C=CまたはC=O二重結合を有する構造式IIのビニルアルコール, または構造式IIIのアセトアルデヒドである(なお, 実際には, ビニルアルコールは存在しない化合物である).

3.0.74 mol

4.32.0 u

5. シクロブタンの元素分析の理論値は

H: 8 H / (8 H+4 C) = 2 H / (2 H + C) = 14.37%,

C: 4 C / (8 H+4 C) = C / (2 H + C) = 85.63%

である.同様に,シクロペンタンの元素分析の理論値は,

H: 10 H / (10 H + 5 C) = 2 H /(2 H + C) = 14.37%,

C: 5 C / (10 H + 5 C) = C /(2 H + C)= 85.63%.

シクロブタンおよびシクロペンタン1.403 gの100℃,1気圧における体積は,それぞれ0.766, 0.613 dm3 である. したがって, 密度の違いから見分けることができる.

6. 省略.

7. [ヒント] ボイルの法則とシャルルの法則とを組み合わせたボイル-シャルルの法則のみか らは, 理想気体の状態方程式p V = n R Tとはならない. アボガドロの法則を考慮して初めて理想気体の状態方程式が得られることに注意せよ. ただし, 化学事典などには, ボイル-シャルルの法則と理想気体の状態方程式が同じ ものであると記述していることに注意せよ.

8. [ヒント] 反応の前後で, 関与する原子数

に変化がないように表す. また, ベンゼンの燃焼反応であるからベンゼンの係数を1となるようにする.

C6 H6 + (15/2) O2 → 6 C O2 + 3 H2O

9. 3.2 節参照.

10. [ヒント] 原子説の根拠は, ドルトンの倍数比例の法則が根拠となっている. 3.3.2および3.3.3 項参照

11. 3.3.5および3.3.6項参照

12. ドルトンやベルセーリウスが実験の結果, 提案した初期の原子量は, 原子の相対的な質量であった. 原子1個の質量を算出できる方法はまだ存在しなかった.

13. ケクレの原子価理論が導入される以前には, 分子中の原子は電気的な結合力で結合するという考えが主流であった. ところが, 電気的な結合力で結合して分子ができると考えると, 同一元素のみを含む酸素, 水素, 窒素, 塩素を含む多くの化合物や, とくに炭素を含む有機化合物の結合様式を合理的に説明することができなかった. ケクレは, 各原子に, 結合手の数である原子価を与えることによって, 多くの化合物の結合様式を説明することができた.

14. (a) H: +1, O: -2,(b) H: +1, O: -1,(c) H: +1, O: -2, N: +5,(d) K: +1, O: -2, Cl: +7,(e) Na: +1, O: -2, I: +3,(f) F: -1, S: +6,(g) F: -1, Xe: +2,(h) Na: +1, O: -2, S: +4.

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4章 電子と原子核の発見−古典物理学の進歩 

1. 4.2節参照.

2. 省略.

3. 放射線が電場や磁場によって曲げられる程度から判定した(4.8節参照). 磁場または磁束密度が紙面手前から紙面の向こう側に向いているとき, フレミングの左手の法則より, 左側にほんの少し曲がっているのが正電荷を有する重い粒子で, 右に曲がっているのが負電荷を有する軽い粒子であると予想できる. 磁場によって曲げられない(影響を受けない)粒子は, 電磁波であると予想される.

4. 荷電粒子(電子, 陽子, 各種のイオン)の質量mの電荷qに対する比を実験的に決定するのに必須であった(4.5節, 4.6.2および4.6.3項参照). m /qの値と, ミリカンの電気素量eの決定によって, 電子や各種イオンの質量が決定されたので, 個々の原子の質量を決定することができるようになった. また, その結果,アボガドロ数も決定できた.

5. 最も重要な点は, ガイガーとマースデンの実験の結果をラザフォードが解析した結果, 原子が原子核と電子からなっていることが明らかになったことである. とくに, 原子は, そのほとんどの質量をもち, しかもきわめて狭い空間を占める正電荷を帯びた原子核と, 原子核のまわりを運動している負の電荷をもつ軽い電子からなるという原子の構造が明らかになった.

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5章 量子論の台頭−古典物理学の破綻

1. 光量子の振動数ν=7.49×1014 s-1. エネルギー= 4.97×10-19 J = 3.10 eV = 299 kJ mol-1.

2. 光量子のエネルギーE = 7.83×10-19 J = 4.89 eV = 472 kJ mol-1.

E > 432.07 kJ/ molより, 十分である.

3. 500 nmの光量子のエネルギーE = 3.97×10-19 J = 239 kJ mol-1. n E ? 2870 kJ mol-1 とおいて必要個数nを求めると, n = 12 個.

4. 7.53×103 J. (λ= 500 nm) = 3.97 × 10-19 J より必要光量子数n =7.53×103 J÷ () = 1.90 ×1022個. 3.15×10-2 mol. 〔問題訂正:比熱の単位は, cal g-1 K-1とすること〕

5. 5.3節参照.

6. 5.4節参照.

7. 5.4.4項参照.

8. コンパクトディスク(CD)の記録面に白色光を当てると, 反射光だけでなく虹のような縞が見える. シャボン球に虹の縞が見える.

9. 通常, 原子または分子ならびにそれらの正イオンから電子を無限遠まで引き離す現象をイオン化と定義する. 炭素の原子核C6+と一個の電子ができる.

水素原子のイオン化エネルギーの原子番号の自乗倍すなわち, 36×13.606 eV = 489.8 eV.

限界波長=2.531 nm.

10. a) 1.655×10-15 J = 10.33 keV. b) ド・ブロイの式 [式(5.32)] から光の運動量pは, p = 5.52×10-24 kg m s?1. c) E = p2/2m = 1.67×10-17 J = 104 eV.

11. 2.42×10-19 J = 1.51 eV = 146 kJ mol-1. 821 nm.

12. 式(5.28)より, 発光のエネルギーは6.540×10-18 J = 40.817 eV.

Krのイオン化エネルギーが, 13.999 eVであることより, 光電子のエネルギーは 26.82 eV.

13. 5.5節参照. 重要な点は, 波長λの光が, p = h /λの大きさの運動量pをもつことが明らかとなったことである. その結果を受けて, ド・ブロイは, すべての物質が粒子-波動の二重性をもつことを提案した. その結果, これまで粒子であると考えられていた電子やイオン, 原子も波の性質をもっているとの提案があり, それが実験的に証明された. ド・ブロイが提案した, すべての物質がもつ粒子を特徴づける量である運動量pと, 波動がもつ波長λの間の関係λ= h / p関係を組み込んだシュレーディンガーの波動力学成立への端緒ともなった.

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6章 物質波とシュレーディンガー方程式

1. 8.8×10- 35 m.

2. (a) 3.82×10- 24 kg m s- 1. (b) 4.82×103 kJ mol- 1. (c) 173 pm.

3. 方位量子数lに対する波動関数の数は(2l+1)個あるから .

4. 簡単のために式(6.76)の定数項を除く. 被積分関数は, rの関数とθの関数だけの積である. よって, 三重積分Iは, それぞれの変数の関数の定積分の積となる. すなわち,

r, θ, φに関する積分値を, Ir, Iθ, Iφとすると, IrIφも0とはならない. しかし, Iθは, 積分を実行してみると

となり天頂角θに関する積分Iθが0となることがわかる.

5. 6.2節および5章の章末問題13の解答参照.

6. われわれが住んでいる世界 (巨視的世界) では, 多くの物体の運動は, 古典力学的描像で説明できる. すなわち, ある時刻における質点の位置と速度(または運動量)が同時に正確に決定でき, その後の運動も粒子間にかかる力がわかっている限り正確に軌跡を決めることができるというものである. ところが, 原子スケールの世界では, これまでに行われた数多くの実験の結果, 物質が粒子性と波動性の両方をもっているということが確実となった. 波動性とは, ある物質が空間的に広がった分布をしている場合に成り立つので, 古典力学の考えとまったく相いれないことである. 現在では, 巨視的世界では波動性も実際にはあるが, 問題1にあるように波長があまりにも短いので観測できない, すなわち粒子性だけで説明できると考えている. 6.2節参照.

7. 基底状態とは最もエネルギー固有値の低い状態で, 1s 原子軌道のことである. この状態を規定する三つの量子数, すなわち(主量子数, 方位量子数, 磁気量子数)の組は, (1, 0, 0) であるから, 方位量子数l = 0である. 方位量子数は, 角運動量の大きさを式(6.66)にしたがって与えるが, これによると角運動量の大きさは0となる. これは, 電子が円運動をしていると考えるボーアの原子模型では, 説明できないことである. したがって, この状態に対応する古典的な運動をしいて考えるとすると, 図6.10のl =0のときの図に示したような運動をしていると考えるのがよいであろう. ただし, 電子の位置と原子核を結ぶ直線上を往復運動しているというようなものではなくて. どこから, 運動を始めるかについてはいえない. 電子が存在する確率密度関数は電子が無限遠まで広がっており, 図6.19のようになる.

8. 例題6.3(p. 93)参照. 電子の状態を規定する量子数の組は四つあって, 主量子数n, 方位量子数l, 磁気量子数mlおよびスピン状態を規定するスピン量子数の成分msも含めると, (n, l, ml, ms)となる〔ちなみに, 1s軌道でαスピン状態を規定する量子数の組は, (1, 0, 0, +1/2)となる〕.

9. 箱の長さa: a = 二重結合長×(二重結合の数+1)+単結合長×単結合の数 = [1.349×5 + 1.467×3] Å = 11.146 Å = 1.1146 nm. エネルギー準位: En = 4.849×10- 20 n2 J (nは量子数).

E1 = 4.849×10- 20 J, E2 = 1.94×10- 19 J, E3 = 4.36×10- 19 J, E4 = 7.76×10- 19 J, E5 = 1.212×10- 18J. 8個のπ電子があるから, 下から4番目の軌道まで, 各2個ずつの電子が占有する. ΔE = E5 - E4 = 4.36×10- 19 Jとなり, このエネルギー差に対応する光量子の波長(理論値) λは, λ = 455 nm. 合わないといえる.

10. (a) . 零点エネルギー= 8.26×10- 40 J. (b) 2.07×10- 21 J. (c) n = 1.58×109.

11. 水素原子は, +eの正電荷をもつ質量の大きい原子核(陽子)と, そのまわりを運動する-eの負電荷をもつ軽い電子からなる. 原子の重心は, 原子核のすぐそばにあり, 陽子に比較して電子の速度のほうが速いので, 電子はほぼ固定している原子核に引きつけられるクーロン引力のもとに運動していることとなる. したがって, 量子力学を用いて得られる電子の運動状態を意味する.

12. (a) 6.5節の図6.9参照.

(b) R(r) = r exp{−r / (2 a0 )}

この関数形は,図6.12と同じ.

Θ(θ)=sinθの関数形(省略). θの定義域は, 0 ? θ ? πで, θ = π/2 のとき最大値Θ(θ)=1となる.Φ(φ)= sinφ(省略).φの定義域は, 0 ?φ? 2π. 方位角依存部分が最大となるのは,φ=π/2のときsinφ= 1となり,φ=3π/2のときsinφ= -1となる.

(c) 2py原子軌道関数の値が最大となるのは, 点(0, 2 a0, 0)で, 最小となる点は,(0, -2 a0, 0)である.関数の空間分布は, 2px関数(図6.15)をz軸のまわりにπ/2だけ回転したものである.

(d) こちらを参照(PDFデータをご覧になるにはAdobe Acrobat Readerが必要です)

13. 2py原子軌道関数は, xz面に関して反対称(この場合に, 反対称とはp. 83 に述べたように, ある点Pxz面に関して対称な点Qをとると関数の符号が異なるときのことを言う)であるが, 1s原子軌道関数はxz面に関して対称である.したがって二つの関数の積は, xz面に関して反対称となる. この積の関数の値に体積要素を掛けて全空間で積分すると, ちょうど打ち消し合って0となる.

14. 例題6.3参照. 主量子数n, 方位量子数l, 磁気量子数mlの組(n, l, ml)で, (4, 0, 0)からはじまる16個の組 〔6章のまとめ (p. 106)参照〕.

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7章 多電子原子と周期律

1. 式(7.1)より, 酸素: 16.004, 塩素: 35.48. 原子量の実測値は, それぞれ15.997, 35.453で, 計算値が実測値よりも大きい. そのおもな理由は, 同位体の質量が整数である質量数よりも実際には少し小さいからである.

2. 6.7節および7.2.3項参照.

3. Heの原子番号は2であるから, 2個の価電子がある. 基底状態のヘリウム原子の電子配置は, 1s軌道を2個の電子が占有する配置をとっている. この場合, パウリの排他原理により, 2個の電子は, その成分が上向きのスピン↑と下向きのスピン↓をもって入る. その電子状態を模式的に示すと右のようになる.

1s

4. 多電子原子であれ多電子分子であれ, 電子が存在するためには電子が入るべき軌道が必要である. パウリの排他原理によると, 1個の空間的な分布を有する軌道には最大2個の電子しか入らないし, 2個の電子が特定の軌道に占有する際には, 異なったスピン成分をもって入る.

5. 7.2.3項(とくに例題6.2)参照. フッ素の原子番号は, Z = 9である. すなわち9個の電子をもつ. このとき, 存在する原子軌道関数は, エネルギー準位の低いものから順に, 1s, 2s, 2p, 3s,…となる. s軌道には1個, p軌道には3個の縮重する軌道がある. 1個の空間的な軌道には最大2個の電子が占有することができる. 9個の電子をエネルギー的に低い軌道から順に1s, 2s, 2pの軌道に埋めていくと, それぞれ2, 2, 5個が入る. その電子配置は1s2 2s2 2p5となり, より詳しく描くと下記のようになる.

6. 遷移元素とは, 原子の基底状態においてd軌道およびf軌道が不完全に占有された元素. より厳密には(n-1)f軌道, nd軌道, (n+1)s 軌道が不完全に電子で占有された電子配置をもつ元素. 典型元素は, それ以外の元素で, 最外殻電子がs軌道またはp軌道に占有されている電子配置をもつ元素と定義する.

7. 6.4.1項(p.122)参照.

8. 6.4.2項(p.123)参照.

9. (1) Z = 8 (O原子). 電子配置:

(2) Z = 13 (Al原子). 電子配置:

(3) Z = 24 (Cr原子). 電子配置:

(注)副殻のすべての軌道がちょうど半分または全部が満たされているときに電子配置は安定となる傾向がある.

(4) Z = 29 (Cu原子). 電子配置:

(注) Cuの3d軌道は完全に満たされているが, 4s軌道が満たされていないので, 遷移金属に分類される.

(5) Z = 44 (Ru原子).

Krの原子番号は, Z = 36であり,その電子配置は次のようである.

Z = 44のRuにはさらに8個の電子が加わる. 次にくる軌道は, 5s, 4d, 5p,…である.

5s軌道から電子を占有させていくと, 5s24d6となる(ここまで書ければ正解とする). ところが, 実験からRu原子の基底状態の電子配置は5s14d7となる. もっと詳しく最終の電子配置を描くと, 次のようになる.

 

10. 対数目盛で作成された図7.1から実際の値を読む方法を述べる. 図7.1には, エネルギー準位EEHで割った値の平方根 を原子番号Zに対してプロットしてある. 縦軸および横軸の値は対数目盛で表されている. 対数目盛で1, 10, 100と目盛られた点の座標は, それぞれ, log1, log10, log100であるから, 0, 1, 2である. まず, 横軸でZ = 14は, log 14 = 1.146のところにある. 横軸のlog10 = 1に相当する値は, 図7.1の横軸を物差しで測ってみると, 38.2 mmであるから, log14はlog10 = 1よりも, 0.146 × 38.2 mm= 5.6 mmだけ右にある. この位置に縦の線を引き, 各軌道エネルギー準位の曲線との交点を見いだす.

1s軌道は, 縦軸の10の線よりも, 2.0 mmだけ下にある. 同様に, 2s, 2pの軌道は, 1.0の水平線よりも19.5, 16.3 mmだけ下にある. さらに, 3s, 3pの軌道は, 0.1の水平線から29.0, 35.5 mmだけ下にある. 縦軸のlog10に相当する長さは, 物差しで測ってみると, 37.0 mmである.

したがって, 1s, 2s, 2p, 3s, 3pの値は, 10×102.0/37.0, 1×1019.5/37.0, 1×1016.3/37.0, 0.1×1035.5/37.0, 0.1×1029.0/37.0, すなわち, 11.325, 3.365, 2.758, 0.910, 0.608となる. これらの値が, であるから, E /EHは,それぞれ128.3, 11.323, 7.607, 0.828, 0.370となる. よって, Eの値は

1746, 154.0, 103, 11.3, 5.03 eV

となる. これらを実測値: 1844,154,104, 13.46,および8.151 eVと比較してみると, 一致は非常によいとはいえないが,これらの準位は, それぞれ1s, 2s, 2p, 3s, 3p電子の結合エネルギーと帰属できる.

11. モーズリーは, 特性X線の波長から原子番号Zを決定できる経験式を見いだし, その理論的な根拠も与えた. その結果, 原子量や密度のような物理的な性質のほかに, その元素のつくる化合物の組成のような化学的な性質も考慮して決定していた原子番号を, 未知の元素の特性X線の波長を測定するという物理的な測定によって決定することができるようになった.

12. Uの原子番号は92である. その1s電子のエネルギー準位は, 式(7.5)で与えられるから, イオン化エネルギーは, 13.606×912 eV = 112.7 keVとなる.

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8章 化学結合

1. メタンの構造式および電子式.

 

構造式    電子式

2. (a)アンモニア, (b) 一酸化炭素, (c)オゾンの電子式

オゾンのO−O結合は等価であることが実験から知られているので, 二つの電子式は共鳴していると説明する.

3. 8.2節参照. 証拠:(a) 気相ハロゲン化アルカリ分子の双極子モーメントの測定値がイオン結合をしていると仮定した値と近似的に等しい. (b) 実験的に測定した気相分子の結合エネルギーやイオン結晶の生成エネルギーがイオンからなると仮定してほぼ説明できる.

4. NaClの場合と同様にLiとFが無限遠にあるときのエネルギーを基準にして, Li+-F-イオン対の位置エネルギーV(R)を表す式は, 次式で与えられる.

(4-1)

この式でB0は反発ポテンシャルの未知の係数である. この式の微分を求めて, その値を0とおくと, 位置エネルギーの極小の条件式が求まる. これを満足する核間距離をReとすると

(4-2)

が得られるが, この式から未知係数B0を平衡核間距離Reを用いて表すことができる.

(4-3)

これを元の位置エネルギーを表す式に代入すると, 最も安定な点 (R = Re) におけるエネルギーを求めることができる.

(4-4)

別の実験から求めた平衡核間距離Re =1.564Åを採用し, 付表A.1 (p. 205) の Liのイオン化エネルギーやFの電子親和力を代入すると,

V(Re) = (-7.494 + 1.993) eV = -5.501 eV.

(注) Li+-F- → Li + Fの反応の結合解離エネルギーは5.501 eVと計算されるが, これは実験値(表8.1)の5.970 eVよりも小さい.

5. 1031 kJ mol-1.

6. すべての原子が互いに無限遠にある位置エネルギーを基準にしたとき, 問題の図の四量体クラスターの位置エネルギーは, Re=2.82028 Åのとき次式で与えられる.

+4×1.522 eV

これを計算すると, V = - 4×(717.28 ?146.85) kJ mol-1. = (-2869.1+587.4) kJ mol-1= -2281.7 kJ mol-1.すなわち, Na+-Cl-の1molあたりとして計算すると, 570.4 kJだけ安定化する. また, 四量体を無限遠に離したばらばらのイオンにするために必要なエネルギーは, 4×717.28 kJ mol-1 = 2869.1 kJ mol-1 あるから, Na+-Cl-の1対あたり, 717.28 kJ mol-1となる. 1 molのNa-Cl結晶の結晶エネルギーの実測値は, 764 kJ mol-1であるから, NaClが四量体になると, 安定化エネルギーは, NaCl結晶の93.9 %は説明できることとなる.

 (注)kJ mol-1の値は, 考える化学種の種類によって変わることを注意すること. NaClの四量体の1molには,4 mol のNaClがある.

7. 原子の中で電子が運動をするためには, 電子が入る“家”に相当する空間的な分布をもった原子波動関数が電子ごとに必要である. ある軌道と1個の電子しか占有していないような孤立電子をもつ原子(例:H, Cl原子)どうしが近づくと, 正の電荷をもつ原子核の間の領域に電子が存在するときにはとくに, 電子は両方の原子核に引きつけられて系全体としては安定化する. すなわち, 電子は二つの原子に共有されて, 二つの原子が無限遠にあるよりは安定化する. これが共有結合と呼ばれる結合様式である.

8. 双極子モーメントは, 通常,結合双極子モーメントをベクトル的に加算できる. CO2では, 酸素原子から炭素原子へ向かう二つのベクトルの大きさが等しく方向が互いに逆であるから, 分子全体の双極子モーメントは0となる. CO2分子の構造を混成軌道の考え方で説明する. 直線分子であるから, 真ん中の炭素原子はsp混成をしていると考えられる. 両端の酸素原子はsp2混成をしている 〔図8.34(b)参照〕 と考えると, 二酸化炭素では, 炭素と一方の酸素原子との結合は二重結合であることが予想される.

9. 結合のイオン性は, 異核二原子分子において電子が完全に一方の原子に移ったと仮定して予想される双極子モーメントに対する実験的に測定される双極子モーメントの大きさの比と定義される. アルカリ金属Mとハロゲン原子Xとが結合してできたM-X分子の双極子モーメントは, 電荷が完全に移動したと仮定した場合の70〜85 %程度である.

10. H2S分子のS−H結合の結合双極子モーメントをμとすると,

1.02 D = 2μcos46.1°より

μ = 0.681 D = 3.336×10-30 C m×0.68

=2.27×10-30 C m

μ= q ×R(S−H)より,

q = 1.71×10-20 C= 0.107e

V = - q2/ (4πε0×2 sin 46.1°) = - 0.093 eV.

この値は, S−H結合の大きさ364 kJ mol-1 (3.77 eV) の数%であるからほとんど無視できる. したがって, 3s2 3px1 3py1 3pz2の電子配置をもったS原子に, xおよびy軸上の遠方から2個のH原子が接近して, 二つのS−H結合をつくると考えると, 直角に近いH-S-H結合角が説明できる.

11. 2個の1s軌道が接近すると, それぞれ1個の結合性分子軌道と反結合性分子軌道ができる. 2個のHe原子には4個の電子があるから, パウリの排他原理によって二つの軌道に2個ずつの電子が占有する. 反結合性軌道に占有される2個の電子は, 結合性軌道に占有された2個の電子による結合を打ち消して, 安定な分子をつくらない. ところが, He2+においては, 3個の電子しかないから, 反結合性軌道に占有される電子は1個しかないので, 結合性軌道に占有された2個の電子による結合性が打ち勝って安定な分子イオンができると説明される. p.148-149参照.

12. CO分子の結合次数は3で, CO+イオンのそれは2.5である. この減少は結合性軌道に占有された電子の減少による. したがって, 前者の結合エネルギーは後者のそれよりも小さい. p. 154-155参照.

13. (1) PO; B.O. = 2.5. 結合エネルギーは大きいと予想される (注:D00 = 6.15 eV. 価電子数はNOと同じ). (2) BN; B.O. = 2.0. 結合エネルギーは比較的に大きいと予想される. (3) B2; B.O. = 1.0. 結合エネルギーは小さい(注: D00 = 3.02 eV). (4) OS; B.O. = 2.0. 結合エネルギーは比較的大きい (注: D00 = 5.359 eV. 価電子数はO2分子と同じ). (5) BO; B.O. = 2.5. 結合エネルギーは相当に大きい (注: D00 = 8.28 eV). (6) CF;単純に結合次数を考えるとB.O. = 2.5. しかし, イオン性は強いので一重結合程度であると予想される(参考: D00 = 5.67 eV).

14. (a) CH3ラジカル:真ん中の原子の混成はsp2であると考えられる. 平面分子と予想される. 2pz軌道は1組の孤立電子対によって占有されている. (b) BF3: この分子も同様に平面分子で, B原子はsp2混成している. B上の2pz軌道は電子によって占有されていない. ところが, 実際にはF原子の2pz軌道上の電子がB上の2pz軌道に部分的に移り, B−F結合にはσ結合性だけではなく, π結合性があるといわれている.

15. sp2混成軌道をしたC 原子(図8.30参照)とsp2混成軌道をしたO原子 〔図8. 38(b)参照〕 が結合してC=O二重結合をつくる. CH2部分は, エチレンのそれと同じであると考える. また, O原子には分子平面内で電子密度が最大となる二つの孤立電子対があると考えられる.

16. 6個のC原子上のsp2混成軌道がσ結合によって下図のように結合し, さらに同じ面上にある6個のH原子の1s軌道とが重なって6個のC−H結合を形成する. 分子面の上下の空間に広がる6個の2pz軌道が互いに相互作用して, π結合を形成する. もし, 隣り合う2個の炭素上の2pz軌道どうしがπ結合を形成するならば, 図3.4 (p. 28) に示したようなひずんだ六角形構造をとるはずである. ところが, 実際にはベンゼンは正六角形の構造をとることが知られているから, 隣り合う2個の炭素どうしだけがπ結合するのではなくて, 六つの2pz原子軌道からできる分子軌道をつくり, これらに6個のπ電子が占有されると考えると,ひずみのない等価な結合を説明することができるが, これ については述べない.

なお, ベンゼンのC−C間のπ結合は, 単純に考えると0.5重であると考えられるので, ベンゼンのC−C間の結合は, 1.5 重であると考えることができる. 実際に, エチレンのC=C二重結合およびエタンのC−C一重結合に対する原子間距離は, 1.338, 1.536 Åで, その平均値は1.437 Åである. ベンゼンの原子間距離は, 1.399 Åであるから1.5重結合よりは少しだけ強い結合であるといえる.

17. p.159参照.

18. Ca−Cb−Ccの両端の炭素は3個の原子と結合しているからsp2混成していると考えられる. 真中の炭素Cbはsp混成していると考えると, H2Ca−および−CbH2のσ結合部分はエチレンのものと同じと考えられる. Ca−Cb−Ccのσ結合も同様に考えることができる. 最後にCa−CbおよびCb−Cc間のπ結合がどのようになっているかを考える. 結合を生ずる前には, Cbの二つの2p軌道は互いに垂直方向に延びており, それぞれを1個の電子が占有している. 2個の2p電子がπ結合をつくるためには, したがって, H2Ca−Cb面とCb−CbH2面がお互いに垂直であることが必要である. その構造は, 下図のようになる. (a)ではすべての混成軌道, 2p軌道, 水素原子の1s軌道を書き入れた. (b)では, 2p軌道のローブのみを書き入れた.

19. シス-およびトランス-1,2-ジクロロエチレンのCa−Ca間の結合は, C原子の混成がsp2であると特徴づけられる. 二つの炭素原子のsp2混成軌道が重なって, σ結合を形成するだけではなくて, 2p軌道どうしの重なりが最も大きくなるように, すべての原子が同一平面に位置する. Ca−Ca結合軸のまわりの回転によって, CaおよびCa上のp軌道の重なりが小さくなると, エネルギー的に急速に高くなる. したがって, シス-およびトランス-1,2-ジクロロエチレンは別々の分子として分離できる.

それに対して, 1,2-ジクロロエタンClH2C−CH2Clでは, C原子の混成はsp3であるからC−C間の化学結合は混成軌道どうしの重なりによるσ結合だけである. したがって, C−C間の回転によるエネルギーの変化は大きくないので, 室温程度ではほぼ自由回転をしている. (注)1,2-ジクロロエタンの分光学的な測定を行うと, Cl−Cl間の距離が最も長くなるトランス形が最も安定で, それから60°回転したゴーシュ形が次に安定であることがわかった〔図3.11参照(p.32)〕.

20. sp2混成をもつ4個の炭素が結合するとき, 三つのC−C間のσ結合がsp2混成間でつくられる. また, 六つのC−H結合はC上のsp2混成軌道とHの1s軌道の間でσ結合によって得られる〔下図(a)参照〕. 残った炭素上の2p軌道どうしが重なって, 端の炭素間にπ結合ができる.その結果, 内側の二つのC原子間には弱いπ結合があるが, 十分強くないのでC−C結合のまわりに回転できて, 下図(b)のシス型の配置にもなることができる.ところが, (b)の配置は太字で描いた水素間の反発によって(a)のトランス形よりも不安定である, したがって, (a)のトランス形が安定であるといわれている.最も安定なトランス形の分子のすべての原子は同一平面内にある.

21. 8.3節および8.6節参照.どちらの場合も分子や金属, 巨大分子であるイオン結晶において電子が存在するためには, 電子が入るべき軌道が必要である. 金属結合にかかわっているのは結晶全体に広がっている軌道である.

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9章 結合エネルギーと分子相互作用

1. (ヒント:表9.4に示した双極子モーメントの実測値が0の場合には, 結合双極子モーメントのベクトル和が0となるような分子であることを示す). (a) 二等辺三角形, (b) 非直線形分子, (c) S=C=S形直線分子, (d) 三角錐, (e) 点対称中心をもつ分子, (f) 点対称中心をもつ直線分子.

2. 結合解離エネルギーは, 弱い結合の50 kJ mol-1 (例: K-K)から強い結合の1075 kJ mol-1 (例: CO分子)までの範囲にある.

3. メタン液体の1分子あたりの体積は, 6.26×10- 23 cm3である. この0.7405倍が球形のメタンの体積とすると, そのファンデルワールス半径は223 pmとなる. C-H結合距離は109 pmであるから, H原子のファンデルワールス半径は114 pm. ポーリングの提案した値は120 pmであるから両者の一致はよいといえる.

4. 9.2節参照

5. 9.4.6項参照

6. 9.5節参照

7. 9.4.6項参照

8. 水分子が水分子と水素結合をしているほうが, 水素結合を切断してガソリンと完全に混ざり合っている場合よりもエネルギー的に不安定となるから,ガソリンと水は分離する.

9. (a) 6 C(s) + 6 H2 = C6H12 (l) + 156.3 kJ

              (P9.9-1)

(b) 6 C(s) + 5 H2 = C6H10 (l) + 38.1 kJ

             (P9.9-2)

(c) H2 + C6H10 (l) = C6H12 (l) + 118.2 kJ

             (P9.9-3)

    118.2 kJ mol-1

(d) ベンゼン生成の熱化学方程式は,

6 C(s) + 3 H2 = C6H6 (l) - 49.0 kJ

             (P9.9-4)

(P9.9-1)- (P9.9-4)より

C6H6 (l) + 3 H2 = C6H12 (l) + 205.3 kJ

                (P9.9-5)

  (e) C6H6 (l)loc + 3 H2 = C6H12 (l) +118.2×3 kJ

          (P9.9-6)

(f) (P9.9-5)- (P9.9-6)より

  C6H6(l)loc = C6H6 (l) + 149.3 kJ

                  (P9.9-7)

  したがって, 図3.5に示した局在化したベンゼンのπ電子系が, 非局在化することによる安定化エネルギー, すなわち共鳴エネルギーは 149.3 kJ mol-1である.

10. 136.2 (エチレン), 124.7 (プロピレン), および126.1 kJ mol-1 (1-ブテン).

          

H2C=C H2 = H2C−C H2 + E    (P9.10-1)

H2 = 2 H ? 436.0 kJ (P9.10-2)

      |  |

2 H + H2C−C H2 = H3C−C H3 + 2×410.5 kJ

(P9.10-3)

H2C=C H2 + H2 = H3C−C H3 + 136.2 kJ

(P9.10-4)

(P9.10-4) -( P9.10-3) -( P9.10-2) より

       | |

H2C=CH2 = H2C−C H2 ? 248.8 kJ (P9.10-5)

よって, π結合を切断するに必要なエネルギーEは248.8 kJ mol-1で, これはC−Cの一重結合を切断するに必要なエネルギー354.2 kJ mol-1の約70%である.

11. 2.54 kJ mol-1 だけ安定化する. この6倍は, 15.23 kJ mol-1 である. HClの蒸発熱は, 16.2 kJ mol-1であるから驚くほどの一致である.

12. 

6C(s) + (3/2)H2 + (3/2)N2 + 3 O2 = C6H3(NO2)3 + 37.4 kJ (P9.12-1)

炭素がCOに変化する場合には, Qを反応熱とすると

C6H3(NO2)3 = 6CO + (3/2)N2 + (3/2)H2 + Q

(P9.12-2)

Q = 6 ×110.57 ?37.4 = 626.02 (kJ mol-1).

               (P9.12-3)

また, 炭素がCO2に変化し, 残りは黒鉛になる場合に, Q´を反応熱とすると

  C6H3(NO2)3 = 6CO + (3/2)N2 + (3/2)H2 + Q´

                (P9.12-4)

Q´= 3×393.51?37.4 = 1,143.13 (kJ mol-1) > Q

いずれの生成物が生ずる場合にも大きな発熱である.

13. RbCl, LiF, NaBrのイオン半径を用いて原子間隔を計算すると, 333, 209, 298 pmとなる. 実験値と比較すると, それぞれ, 1.2, 4.0, 0 %の誤差であるから正確に見積もることができるといえる.

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