『化学のコンセプト』

章末問題 解答

 1章 化学とは何か―科学のなかの化学―

 この章の問題はすべて,本文や章末の参考書や科学史(化学史含む)関係の図書などを自ら調べて読者自身が自主的に解答を引きだすことを期待した問題です.ただし,6と10にだけ,若干のコメントを記します.

6.砂糖(ショ糖,スクロース)

  砂糖の生産は,キューバなどの西インド諸島を中心に17世紀後半頃からサトウキビの大規模栽培により盛んに行われるようになりましたが,その際の労働力として西アフリカの黒人が多数奴隷として強制的に連れてこられています.初期には,奴隷一人の値段は砂糖約500kgに相当していたそうですが,18世紀末頃には砂糖2トン程度の値段で取引されていたといわれています.砂糖は,化学的にはブドウ糖と果糖からなる二糖類で,ブドウ糖も果糖も食物から摂取できる物質なので,とくに砂糖を摂取しなくてもよいのですが,コーヒーや紅茶などに入れて飲用する習慣が西洋を中心に盛んになり,その結果需要が増大していったものです.

  一種の嗜好物質ですが,アルコールやタバコ(ニコチン)や麻薬などと同様に耽溺性(addictive)があり習慣性の物質ともいえますし,肥満や糖尿病や虫歯などの原因物質でもあり,過剰摂取は好ましくありません.

10.アボガドロ定数を最初に測定したのは,オーストリアのロシュミット(1821〜1895)といわれていますが,アボガドロ定数を多数の方法を用いて測定を試みた人物としては,フランスのジャン・ペラン(1870〜1942:1926年にノーベル物理学賞受賞)が有名です.彼は,コロイド粒子のブラウン運動,気体の粘度,ラジウムのα線の測定など16種類の測定法を提案しています.現在,もっとも精度のよい測定法はX線による結晶密度測定といわれています.

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 2章 ミクロの世界をさぐる―原子の構造―

1.本文参照

2.

記号

原子番号(Z)

中性子数(N)

質量数(A)

電子数

電荷

41Ca2+

20

21

41

18

+2

He2+

2

2

4

0

+2

139I

53

86

139

54

−1

235U

92

143

235

92

0

197Au

79

118

197

79

0

3.本文p35の問題文の訂正

 (誤)22Neが90.48 → (正)20Neが90.48

 (誤)20Neが9.25  → (正)22Neが9.25

  20.000× +21.000× +22.000× 20.1877

4.Emc

    =6×(1.008665+1.007276+0.0005486)×1.6605×10−27 kg×(2.998×10 m s−1)

    1.8057×10−9 J

5. ×235=9.76×10−4 g

6.(1)

 (2)半減期(t1/2)=5730×365×24×60×60 s=1.807×1011 s

   ∴ 崩壊定数(k)=0.693/t1/23.84×10−12s−1

 (3)

 (4)毎秒37億個の崩壊数に相当するC‐14の原子数をxとすると

   k×x=(3.84×10−12 s−1x=3.7 ×10  ∴ x=9.64×1020

 したがって,モルに換算して14を掛けると

   (9.64×1020/6.022×1023)×14=0.0224 g

7.安定同位体のヨード(127I)イオンで希釈して甲状腺に放射性ヨードが取り込まれることを防ぐため.

8.log =log =− =− より

   t190

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 3章 エネルギーの階段をのぼる―元素の素顔―

1.本文参照

2.(1)I:[Kr]4d10 5s 5p  (2)C:[He]2s 2p  (3)Si:[Ne]3s 3p

 (4)P:[Ne]3s 3p  (5)K:[Ar]4s

3.(1)Li  (2)F  (3)Ar  (4)Cs  (5)Al

4.電子配置 [Kr]4d10 5s 5p

 イオン I,Cs,Ba2+

5.周期表参照

6.(1)[He]2s 2p  (2)[Ne]3s 3p  (3)[He]2s 2p

 (4)[Ne]3s 3p  (5)[Ar]3d10 4s 4p

7.アルファベットはC

 C,Cl,Ca,Cs

 Cr,Co,Cu,Cd

 Ce

 Cm,Cf

8.(1) 核電荷の増加によってクーロン力が増大するため.

 (2)内核電子の遮へい効果のため.

 (3)N原子の2p軌道には3個の電子がフントの規則で一つずつ収容されているが,O原子の2p軌道は4個目の電子を収容する際に,電子どうしの反発が生じるため.PとSも同様の関係.

9.Enhνより

   E=6.022×1023 mol−1×6.626×10−34 J s× =199 kJ mol−1

 よって,不充分

10.hν=6.626×10−34 J s× =4.97×10−19 J=3.10 eV

 1モルあたりでは

   4.97×10−19 J×6.022×1023 mol−1299 kJ mol−1

11.式(3.24)において,dD(r)/dr=0とおき,不要な共通部分を消去すると

   ra=0

12.1万ボルトで加速された電子の速度は

   mveV=1.602×10−19×10000=1.602×10−15 J より

  v =0.352×1016 m s−2  ∴ v=5.9×10 m s−1

  λ= 0.0123 nm

13.プランク定数の次元は  [質量][長さ][時間]−1

 角運動量(mvr)= [質量][速度][長さ]=[質量][長さ][時間]−1

14.例題3.3参照.

   n= 5,l=1.1 nmを代入すると

   λ= 363 nm

15.水素の原子核〔陽子〕は電子の質量の1836倍である.電子の質量を無視しないとすると,エネルギー(E) の一般式は,E × となる.すなわち,エネルギーは =0.99945 相当分減少する.いいかえれば,0.055%だけ水素のエネルギーは上昇する.

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 4章 原子が手をむすべば―化学結合と分子―

1.

(1)

(2)

(3)

 
 

(4)

(5)

(6)

(7)

 非共有電子対の数 (1)0 (2)4 (3)2 (4)2 (5)3 (6)2 (7)2

 極性をもつものは,(3),(5),(6),(7).

2.(1)・(2)SClおよびSClは,S原子の周りの電子対が4個なので正四面体型の構造と推定される.また,非共有電子対が2個あるので,その反発により109.5°よりも小さくなると思われる.

 (3)SClは電子対は5個なので三角両錐(六面体)型と推定される.

3.シス型とトランス型の2種類.

4.イオン結合の割合= ×100%である.

 LiHの場合: μ(実測値)=1.964×10−29 C m

       μ(計算値)=(1.602×10−19 C) ×(1.596×10−10 m)=2.557×10−29 C m したがって,イオン結合の割合は

    ×100=76.8

 COの場合: μ(実測値)=0.37×10−30 C m

μ(計算値)=(1.602×10−19 C) ×(1.128×10−10 m)=1.807×10−29 C m

 したがって,イオン結合の割合は

    ×100=2.05

5.図4.18参照.Nはすべての電子が対を作っており,電子のスピンは逆平行,Oは(π2p)の2個の電子が平行スピン(トリプレット状態)にある。したがって窒素分子は反磁性,酸素分子は常磁性である.

一方,NO分子は(K殻電子)(σ2s)2s)2p)2p)2p)の電子配置をもち,不対電子があるので常磁性となる.

6.

(極性あり,μ=1.85,bp=60℃)

 

(極性なし,μ=0,bp=47℃)

 シス型(上側)のほうが沸点が高い.

7.(1)dE/dr=0より  rr

 (2)E(∞)−E(r)=D

 (3)経験的な実験式ではあるが,図4.1と同様の図が再現される.

8.CHCH−H + Cl−Cl→CHCH−Cl + H−Cl

   ∴ ΔH=414+242−327−431=102 kJ mol−1

   (ΔH°=−113 kJ mol−1)

9.2 ×1.54 nm×sin 2.51 nm

10.O:(K殻電子)(σ2s)2s)2p)2p)2p)

結合次数=(6−1)/2=2.5

  O:(K殻電子)(σ2s)2s)2p)2p)2p)

   結合次数=(6−2)/2=2

  O:(K殻電子)(σ2s)2s)2p)2p)2p)

   結合次数=(6−3)/2=1.5

O2−:(K殻電子)(σ2s)2s)2p)2p)2p)

   結合次数=(6−4)/2=1

 したがって,結合距離の大きさの順は  O2−>O>O>O

       結合エネルギーの大きさの順は  O>O>O>O2−

11.窒素分子と同様の電子配置として

   CO:(K殻電子)(σ2s)2s)2p)2p)2p)

     結合次数=(6−0)/2=3


12.3dxy軌道と,3s,3p,3pの各軌道では,異符号の重なり積分が互いに打ち消しあい,結合はつくらない.3dxy軌道と3pでは,重なり積分が打ち消しあうことがないので結合をつくる.

   3dxy   3s    3dxy    3p       3dxy   3p       3dxy   3p

13.Hの1s軌道とFの2p,2pの各軌道では,異符号の重なり積分が互いに打ち消しあい結合はつくらない.したがって,Hの1s軌道とFの2s,2pの3つの軌道が混ざりあって新しい3つの分子軌道が生じる.

このうち,エネルギーの低い二つの結合性軌道に4個の価電子が収まり,安定な分子を形成する.

 

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 5章 ミクロの世界をマクロの目で―化学熱力学の考え方―

1.本文参照

2.−279 kJ mol−1

3.-891 kJ mol−1

4.(1)-131 kJ mol−1  (2)−253 kJ mol−1  (3)466 kJ mol−1

 (4)−44 kJ mol−1

5.wnRT ln に,n=1 mol,R=8.314 J mol−1 K−1T=298 Kを代入して

   w=8.314×298×ln 1.72 kJ

6.固体および液体の場合はCC,気体の場合はCCRより,R=8.314 J mol−1 K−1分差し引いて

   C(Ar)=12.6 J mol−1 K−1C(N)=20.7 J mol−1 K−1

   C(HO)=75 J mol−1 K−1C(Ag)=25.5 J mol−1 K−1

7.1gあたりの定圧燃焼熱=−1.5 kJ×17.8=−26.7 kJなので,モルに換算すると

   Q=122×(−26.7)=3257 kJ mol−1

また  定圧燃焼熱(Q)=定容燃焼熱(Q)+ΔnRT

であり,燃焼の反応式は

  CHO+7.5O→7CO+3HO(l)

なので,Δn=7−7.5=−0.5を上式に代入すると

  Q=−3257−(−0.5)×8.314×298×10−33256 kJ mol−1

8.最終到達温度をT Kとすると,

mol×24.6 (J mol−1 K−1)×(343−T)+ mol×24.8(J mol−1 K−1)(353−T)

mol×75(J mol-1 K-1)(T−293)(J mol−1)

   ∴ T=294.7K→21.7℃

9.両物体の到達温度をTとすると,C(TT)=C(TT)より,T=(T+T)/2である.したがって,熱い物体と冷たい物体のそれぞれのエントロピー変化は

   ΔSC ln

   ΔSC ln

   全エントロピー変化(ΔS)=ΔSΔSCP ln

 ΔS>0であることを示すには, >1であることを証明すればよい.すなわち

    TT

 になることを示せばよい.上式を変形して

   T+2TTT>4TT

 さらに変形して,(TT)>0は自明であるので,ΔS>0となる.

10.ΔS=100×4.184(ln +ln )=6.89 J K−1

11.水の場合は体積変化はないものとして

   ΔG=V(P−P)=18.05(cm)×(10−1)(atm)

 よって

   ΔG=162.5×10−6(m)×1.01325×10(N m−2)=16.4 J

 酸素の場合は体積変化するので

   ΔG=RT ln =8.314×298×2.303=5706 J

12.ΔG°=−2.303×8.314×298×log 1.43 kJ mol−1

13.ln =− ( )より

   ln =− ( )

   ∴ ΔH°=12.4 kJ mol−1

14.表5.1より

   ΔH°=ΔH°(CaO)+ΔH°(CO)−ΔH°(CaCO)

     =−635+(−394)−(−1207)=178 kJ mol−1

 表5.7より

   ΔS°= S°(CaO) + S°(CO) − S°(CaCO)=40+214−93=161 J K−1 mol−1

 したがって  ΔG°=ΔH°− TΔS°= 178−298×0.161=130 kJ mol−1

15.(1)液体から気体への変化なので,ΔS°>0である.

 (2)気体反応で物質量は減少しているので,ΔS°<0である.

 (3)二つのイオンから1分子が生じているので,系のエントロピーは減少する。すなわち,ΔS°<0である.

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 6章 物質の素顔をさぐる―気体・液体・固体の性質―

1.平均分子量:0.21×32+0.78×28+0.01×40=29

   密度:29 g÷(22.4 dm)=1.29 g dm−3

2.KClOのモル数=100/122.6 mol=0.816 mol

   ∴ Oのモル数=1.5×0.816 =1.224 mol

 18℃,1000ヘクトパスカルでの酸素の体積(V)は

   V=(1.224 mol)×(0.0821 l atm K−1 mol−1)×(291 K)× 29.6 l(dm)

3.水素の速度:酸素の速度= =4:1

 水素の速度と同じ速度にするには酸素の温度を,4×300K=4800 Kにする.

4.(1) 6.94 atm (2) 6.76 atm

5.(101.325−63.5)×0.21=7.9 kPa

6.(1)SO:極性があるので.

(2) Br:電子数が多いのでファンデルワールス力も大きくなるから.

(3) CHOH:水素結合しているので.

(4) n−ペンタン:直鎖状アルカンの方が接触面積が大きいので.

(5) Xe:Xeの方が電子数が多いので.

7.式(6−17)に,P=1 atm,T=373 Kを代入した式と,P=0.33 atm,求める沸点Tを代入した式を辺々引き算して

   ΔH=40.7 kJ mol−1

 R=8.314 J mol−1 K−1より  T=344 K=71

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 7章 平衡に近い系,遠い系―溶液,酸・塩基,酸化・還元―

1.スクロースの分子量=342

(1)スクロースのモル数は   =0.05848 mol

 これが,1020g=1.02 dm中に存在するので  0.05848÷1.02=0.0573 mol dm−3

(2) 0.05848÷(0.05848+ )×100=0.105 mol

(3) ΠcRT=0.0573×0.08206×293=1.38 atm

(4) 20℃の水の蒸気圧は17.536 mmHg.ラウールの法則より

   0.018mmHg降下(2.4×10−5atm降下)

(5) ΔT=0.51×0.05848=0.030  ∴ 沸点=100.03

2.ΠcRTより

   cΠRT=7.6 atm÷(0.08206 l atm K−1 mol−1)÷(293K)=0.311 mol l−1

 NaCl→Na+Clに解離するので,食塩の濃度はこの半分(0.155 mol l−1)でよい.

3.ΔTK×mより

   m=15 ℃/ (1.86 ℃ kg mol−1)=8.06 mol kg−1

したがって,エチレングリコールの分子量(62.1g mol−1)から

  2×8.06×62.1=1001g

となり,体積に換算すると

  1.001/1.11=0.90 l

が必要.

4.時間(s)×125 A= ×3×9.65×10 C

   ∴ 時間=8.6×10 s=2.4 h

5.(1)電池の反応は  Zn+Cu2+→Zn2++Cu

ネルンストの式(7.11)に各定数を代入し,単位をボルトで 統一すると

  EE log Q

で表せる.ここで  標準電位E=0.34−(−0.76)=1.10 V

  ∴ EE log (Zn2+/Cu2+)=1.10−0.0296 log(10−1/10−9)

     =1.10−(0.0296)×8=0.86 V

(2)ΔG=−nFE=−2×(9.65×10)×(0.86)=166 kJ

6.[HA]=C,[BA]=Cとすると  pH=pK+log(CC)

(1) CC=0.5 mol dm−3なので  pH=pK

(2) 濃度比CC は変わらないので,pHは一定である.

(3) C=(0.5/1.1) mol dm−3C=(0.6/1.1)mol dm−3より

  濃度比CC=0.83  ∴ pHの変化=log0.83=0.08

(4) C=(0.6/1.1) mol dm−3C=(0.4/1.1) mol dm−3より

  濃度比CC=1.5  ∴ pHの変化=log1.5=0.18

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 8章 障壁を越えれば―化学反応と速度―

1.本文参照

2.初濃度をa,時間t後,t後の濃度をそれぞれaaとし,各式にt=50分,a=0.8aa=0.4aを代入する.

(1)式(8.6)より  aak×50  aak×t

 上記の値を代入し,辺々わり算すると  t150

(2)式(8.9)より  ln a=ln atk  ln a=ln atk

 上記の値を代入し,辺々わり算すると  t205

(3)式(8.14)より   tk    tk

 上記の値を代入し,辺々わり算すると  t300

3.99.9%反応するのに要する時間をtとし,50%反応するのに要する時間をtとすると,t ln より

    =ln /ln =log1000/log2≒10

4.式(8.26)より

   log × =0.472

   ∴ kk2.96 (倍)

5.ウランの濃度が4分の1になっているので,ウランの初濃度をaとすると,式(8.9)より

   ln =ln akt  ln =ln akt

 t=45億年,a a をそれぞれ代入して,辺々わり算すると

      ∴ t90億年

6.E(cistrans)=E(transcis)−ΔH=224−4.2=220 kJ

7.(1) 8になる. (2) 4になる. (3) 1/8になる.

8.式(8.26)より

   E ×log =(119 kJ mol−1)×(log 9.4)=116 kJ mol−1


9.(1) 以下の表のように,ln(ax)とtが直線関係にあるので一次反応.

(2) (1)の直線の傾きが速度定数(k)に相当する.

   ∴ 直線の傾きの平均≒0.046 h−1

10.初期濃度が同じなので,式(8.14)を用いて

   =0.137t   ∴ t7.7 s

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